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森川剛光「羽入論文の実像と虚像」

200449

以下の文章は、森川様からウェーバーのメーリングリストに配信されたものです。

 

 

MWMLの皆様、橋本努様

 

森川です。こっちのマンションを引き払うために一時帰国しております。

 

ドイツに行っている間に、羽入氏の「世界的大発見」が掲載されて雑誌をチェックしてきました。もうされた方もおられるかもしれませんが。

 

まずZeitschrift für Soziologieに1993年に掲載されたMax Webers Quellenbehandlung in der "Protestantischen Ethik". Der Begriff "Calling" ですが、同誌には同論文掲載後最近のものまでチェックしましたが、同論文に対しては賛成反対ともよせられておりません。掲載されたがほぼ無視されているという状態です。羽入書284頁に「ドイツの社会学誌ZfSの二月号に掲載された。ちょうどその翌月の三月にはドイツで日独ヴェーバー・シンポジウムが開かれることになっていたので、タイミング的には好都合であった」とあり、あたかも読者は同誌掲載論文が「世界的大発見」でシンポジウムでも取りあげられたかのような印象を持ちますが、シンポジウムの結果はMax Weber und das moderne Japanで、また参加者証言からもそこで羽入論文が話題にもならなかったことが判ります。

 

またArchives europeennes de sociologieの方については、「(マックス・ヴェーバーによる/の意味の歪曲」)と題された特集号の、特集部分の巻頭論文として掲載されたもの」(羽入書284285頁)とあり、掲載年が1994年であることから、「世界的大発見」であるZfS論文を受けて緊急特集が組まれ、その巻頭を羽入氏の論文が飾ったかのような印象を読者は受けるようになっています。しかし、特集は羽入論文を含めて、2本の論文からなり、もう一本の論文はパーソンズのヴェーバー翻訳を問題にしたPeter GhoshSome problems with Talcott Parsons' version of 'The Protestant Ethic'であり、特集自体も雑誌の中程にあります。従って、同誌が羽入論文の立場を全面的に認めて大特集を行い、その巻頭を羽入論文が飾ったわけではなく、2本ある論文の一つでたまたま(おそらく取り扱う時代の順序で)最初にきたに過ぎないと思われます。「ヴェーバーによる意味の歪曲」を取り扱っているのは羽入論文のみです。また、論文に対する反響ですが、これまた同誌のその後数年間を見る限り、賛意も批判もよせられておりません。

 

自分のことを大きく見せたいのという欲望をもつことは結構ですが、この様なところを見る限り、詐術を用いているのはヴェーバーより羽入氏ではないかという思いを禁じ得ません。また、「ドイツ・ヴェーバー研究の世界に衝撃を与えた」というカバーの内容紹介部分も、宣伝コピーとして多めに見てきましたが全く事実とかけ離れています。また、この様な欧文雑誌をあたるだけで実体が判る「詐術」を用いるとは、日本の読者もなめられたものだと思います。